一流のノートと超一流のノート

 ハイ、諸君、こんにちは。ここのところ私の研究室を訪れる学生が増えている。特に就職活動の相談に来る他ゼミの諸君が多い。大歓迎である。本学で就職活動と学生採用と両方の経験を持つ唯一の教員かもしれない。その経験が役立つのであればできる限りの時間 を本学学生諸君に割きたいと考えている。就職活動の話は別稿に置いておくとして少し気 になることがある。研究室への訪問者たちは身を乗り出して非常に熱心に私の話を聴くの だが、ノートを持参しない学生が多い。私の話があまりにおもしろ過ぎてメモを取ること すらすっかり忘れていたという理由ならいいのだが、原則として人の話を聴きに行く時は メモを取る準備をしておくべきである。テーブルに着いたらまずノートを出して「いつで もどうぞ!」という体制で臨んでほしい。特に OB 訪問など就職活動のシチュエーションではきちんとしたノートを携えて出かけよう。
 私は筆記具を使用してモノを書くというアクション自体にいろいろな意味を見出している。書きながらオヤっと何かに気づくこともあるし、書くことによって理解が深まったり、 考えがまとまったりすることもある。何といっても肉筆の文字が丁寧に敷き詰められたノ ートはたとえ字がヘタであろうと美しい。また、書いている動作が相手に対するメッセー ジになることもある。宮川ゼミでは輪番でレポーターがあたり、レポーターは片面印刷されたレジュメを準備する。各自がレジュメをパンチしてバインダーノートにファイルすると、バインダーノートを開いたときに左側がレジュメ、右側が白紙となる。各自はノート左側のレジュメをにらみながらゼミ中に気づいたことや私の説明などレジュメに足りない 情報を右側の白紙に書き込んでいく。これは決まりではなく、いつの間にかゼミ内で習慣 になっている作業である。毎週レジュメがバインダーにファイルされ、最終的には各自の 個性が生かされた完璧なサブノートが出来上がっているに違いない。
 インタビューや取材だけでなく相手と重要な話をする際にメモを取ることは社会人にな れば常識となる。真っ先にノートを取り出すことによって「さあ今日はあなたの話をじっ くり聴かせていただきやしょうか」という一つのメッセージとなる。相手にも適度なプレ ッシャーを与え、話す側はいい加減なことは言えないなと覚悟を決める。重要な情報を交 換する準備とも言えるだろう。しかし、一方的に話を聴く立場となってうつむいたまま黙々と取り憑かれたようにメモを取る人がいるが、やや気味が悪い。つまらない会議に出るとそういう人に出会う。会議とは別のことを考えながらメモすることで時間を潰しているなら理解できるもののあまりに熱心な様子を見ていると「おいおい今のどーでもいい話のど のあたりをメモしてんだ、コイツは?」と会議よりそちらが気になって仕方がなくなる。
 できることならお互い豊かな表情で会話をしながらポイントを押さえたメモを取りたい。 インタビューの仕方は別稿に譲るが、相手の話を気持ちよく引き出す工夫が重要である。そのためにはまず刑事ドラマの聞き込みのような小さな手帳は使用しない方がいい。私は実務時代 A4 版の固いバインダーに罫なしの白紙リフィルをふんだんに詰めて使っていた(もちろん文具オタクの私は筆記具の選択にも殊更こだわっていたが)。コンサルティング の駆け出しの頃、私はある経営コンサルタントにずっとついて仕事をし、コンサルティン グのいろはを習っていたことがある。マネジメントインタビューも彼と並んでメモを取るのだが、自分のノートを取りながらふと隣の彼のノートを見ると丸や四角が矢印で結ばれ、 いつの間にか絵になっている。私のノートはインタビュイーの発言をそのままだらだらと 書き連ねているに過ぎない。翌日、彼はそのノートを電子データで清書して再びインタビ ュイーを訪れ、「昨日の話をまとめるとこういう理解になったのですが、いかがでしょうか」などと立派な資料になったペーパーを持参する。一流のノート術といえるだろう。「オレもこんなコトやってみたい」と考えた私はその時から見よう見まねでノートのリフィルを罫 線なしの白紙にし、今でもその習慣を続けている。当時彼から教えられた様々な絵の書き 方を私は「パワーチャート」と名付けて今では時々ゼミ生諸君に紹介しているわけである。
 彼も同じだが、特にアナリストの企業訪問インタビューでは、机の上にどーんとノート を置き、自分が書いたことを相手に見えるようにメモを取ることが暗黙のマナーとなっている。正確なメモを取るために、また相手の発言であってもメモしてはいけないことを区 別するために相手に確認しながらメモを取る。こうなるとメモはもはや相手との共同作業 である。しかし、これには非常にツライものがある。そもそもあまりに字がヘタだったりするとちょっとみっともない。また、英語のスペルを間違えるのはもっとみっともないし、 漢字がわからなくてひらがなで書くことも躊躇される。相手の発言をうまくまとめられず、 発言そのものを記述すると「まんまかよ」的な表情が相手に浮かんでいるような錯覚にと らわれたりする。そんなことを気にせずスラスラできるようになると一流であろう。
 さて、超一流だが、おそらくノートを取らずに全てを頭の中に入れることだと思う。そして、ココが話のキモだなと思ったときに「今のお話だけメモに残させていただきたいのですが、問題ないでしょうか?」と相手に許可を得てからやおらノートを出す。しかもそ れは「今のコメントはきちんと覚えていますからね。後になって口が滑ったでは済みませ んよ。」という相手へのプレッシャーを含意するのである。いずれ諸君もそういうメモを取 るような仕事に就くことだろう。ゼミでは決してやらないように。

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