3.テーマをさがそう
どうやってテーマに行きつくか?
さて、卒論のテーマを選定することが卒論作成において最も重要で、かつ苦しいステップです。「産みの苦しみ」なんてよく言うでしょ?
最初「さあ、テーマを考えるぞ」という段階ではなんだかテーマなんていくらでもありそうで楽しいのですが、思いついたテーマを徐々に煮詰めていって検証可能な具体的なテーマに落とし込む段階が最初に訪れる高くて苦しいハードルです。
これからほぼ一年かけておつきあいするテーマですから、当たり前ですけどできる限り自分が心底興味を持てるテーマにしたいものです。で、この一年間はときどき「オレって今こういうテーマで研究してんだよね」と周りの友達にちょっとカッコつけて吹聴できるといいですね。
だいたい以下のような手順がヒントになります。
- 自分に関心のある領域をまず大雑把に特定しましょう(資本政策とか株主還元とかサステナビリティとか企業買収とか、これまでゼミの基本書で勉強したものや最近のメディア記事などを大きな掴みで思い出します)。
- それらの領域における主要な研究論文をまずはいくつか読んでみましょう。いつも言ってますけど、先行研究を読むとき重要なことは批判的に読んでみることです。「批判的に読む」とは、その研究で「何が達成されたか」ではなく、「何が解っていないか」「何が未解決か」を探すべく読むということです。
- 自分の関心と過去の文献における未解決領域を睨みながら、卒論で自分が解決したい研究課題を徐々に具体化していきます。
通常は、関心領域の文献と自分の問題意識とのつき合わせという上記のプロセスを数回繰り返すものと思ってください。そのうち具体的なテーマが見えてくるものです。
どうやって独創性を出すか?
新規性と独創性という話をしました。大学院レベルでは、これまで未踏の問題領域について全く新しい理論=仮説を構築し、ユニークな統計的手法で検証することになります。卒論なのでそこまでは求めないと言いましたが、なんとかわずかでも自分の研究にオリジナリティはほしいものです。通常オリジナリティを出す具体的に実現可能な方法として以下のようなものがあります。
- ゼミで学んだ既存理論を正しく理解して、自分なりの仮説を設定して、自分で収集したデータによって検証するという流れができていれば原則OK。
- すでに他国のデータで検証された仮説を、日本のデータを用いて検証する。制度的な違いなど日本的な要素を考慮して分析できればいいですね。
- あるいはすでに実証された仮説を異なるデータセット(新しいデータ)によって再び検証する。
- 既存仮説を、これまでの文献とは異なる統計的検証方法で検証する(データは同じでもOK)。
- これまで関連性が注目されていない二つの(複数の)研究領域を結合するような仮説構築とその検証を行う。
もっとも簡単なのは(かつ論文として認められやすいのは)、自分がベースとする先行研究をさがしてきて、それに倣うという方法です(過去の先輩たちはこれを「下敷き論文」などと呼んでいました)。
いずれにしても、いろいろな本を読んで自分なりにまとめて字数を埋めました、という体裁では宮川ゼミの卒論の水準を満たすことはできないということです。
先行研究を探すコツ
そこで、大事なことは先行研究をなるべくたくさん読むことになります。最初はあてずっぽうで構わないので学情へ行ってCiNiiでなんとなく検索して、なんとなく論文をひとつ選びます。そして、まえがきを読んで結論を読んで、「なんか参考になるかも」と思ったら内容を読みます。
大事なのは論文の最後に出てくる参考文献です。ふたたびCiNiiに向かっても構いませんが、自分が読んだ論文の参考文献リストから当たりをつけていきます。その中から参考になりそうな論文を読んで、またその論文の参考文献リストの中から論文を探すというように芋づる方式で論文を探していきます。
このときも常に論文は、まえがきを読んで結論を読んで、「なんか参考になるかも」と思ったら内容を読むことを繰り返します。先行研究を読んだら、せっかくですからノートにメモをしておきましょう。どのような論文にも「研究デザイン」というものがあります。その研究デザインをメモしておきます。ざっと以下のようなものです。
①その研究の目的、ねらいはなにか
②その研究の貢献はなにか
③研究のためのフレームワーク(どういう理論的枠組みに依拠するか)
④仮説はなにか(研究フレームワークから導出された仮説)
⑤仮説の検証方法(モデル式)とデータセット(何年から何年の東証上場何社とか)
⑥結論はなにか
以上のようなことを論文1本につきノート1ページだけで短くまとめておきます(論文1本につきword1枚にまとめてファイルするとか)。これを繰り返していくうちにだんだん学術論文というものが何かがわかってきますし、自分が書く時の手助けになります。論文ってこういう表現を使うんだ、とかね。
そして大事なこと。一年かけてありとあらゆる文献に当たり、自分が選んだテーマについては日本中のどこの大学生にも負けないぞといえるようになるまで知識を蓄積しましょう。社会に出てからも「○○について語らせたらそんじょそこらの人間には負けませんぜ」と言えるくらいにね。