文系と理系って正しい分け方?

宮川研究室は開講して2年目の春を迎えました。春風といっしょに元気いっぱいの2期 生12名が入ってきて総勢 25名の所帯となっています。この「宮川コラム」も一区切りつけて本稿から「SeasonII」とします。文体も変えて新たな気持ちで書いていこうと思っていますが、もう少し内容を軽くしてむしろ頻繁に更新できればとも考えています。

さて、SeasonII第1稿は最近ちょっとしたきっかけがあって文系と理系という分類について考えてみたいと思います。商学部は文系学部とされていますが、医者になりたいとか法律家になりたいという目的がないと、往々にして数学と理科が苦手だから文系、あるいは国語が嫌いなので理系といった消去法的な発想をきっかけに学部を選ぶ高校生が多いように思います。自分には物理が向かないし、数学的な頭がないと勝手に考えた人も多いかも しれません。社会に出てからも同じで何かというと「私は文系ですから」という言い訳をします。かつて私もそうでした。しかし、考えてみますと数学や理科を学ぶのは中学や高校のせいぜい6年程度の話です。大学受験などまだ20 歳にもならない子供が1、2年勉強した結果に過ぎません。それでただちに数学に向いていないというのは考えてみればあまりに乱暴な判断です。これから先、諸君が社会で50年近く仕事をして行くことを想定すれば実に短絡的な発想です。

私の理解では、文系と理系という分類はその昔明治時代に日本が列強に追いつくため海外の技術を学んで日本に持って来るという目的(つまり医学、理学、工学など)と国内の政治や法律を整備するという目的(つまり法学、政治学、経済学など)の大きく二つの目 的に分けて効率的にエリートを教育したことによる極めて便宜的機能的な分類であって、 学問上の分類としては意味をなさないということです。学問上だけではなく実務上の技術 や知識も現代は複雑高度化しており、理系と文系という大昔の価値観で分類することはもはや不可能です。にもかかわらずいまだに文系と理系という概念をひきずってこれにとらわれることは自らの可能性を狭めていることと同じです。私はリベラルアーツや学際主義を主張しているのではありません。根拠希薄な概念にとらわれることの無駄について理解 してもらいたいと単に考えているだけです。

諸君の大学での勉強が進んでいくとますます文系と理系の区別に意味がないことがわかってきます。コーポレートファイナンスの教科書をぺらぺらめくっただけでそのことが理解できるはずです。そもそも「系」という表現を使うこと自体に最初から明確な組織的区分の裏付けがなかったことを表しているのかもしれません。諸君が学ぶ学問を分類すると すれば「社会科学」と「自然科学」という分け方が正しいと思います。学問というのは人 間が学ぶものですから、世の中に起きている現象の中で人間の知識が及ばないことを探し出して、それを研究し、理論的に説明することを目的としています。研究が蓄積されることによって世の中の不思議が一つずつ消えて人間の知識になり、それが体系づけられて学問になって行くわけです。例えば、りんごが木から落ちるという現象はそれまで人間にとって理解できないことだったのですが、この不思議な現象を研究して万有引力という理論 に仕上がり、人間の知識になっていったという具合です。

世の中の不思議を研究するためにその対象となるものを大きく二つに分け、自然現象を対象としたものを自然科学、人間の行動を対象にしたものを社会科学と呼ぶことができます。そして、どちらも起きている現象を正確に捉え、現象が起きている因果関係を突き止め、その因果関係を客観的に検証し、一つの法則を探し出すという点においては自然科学にも社会科学にも全く違いはありません。この発想から私が諸君に教えているのが科学的思考論です。研究の対象が違うだけで学問の方法論はほぼ同じです。一方は数学を使い、一方は文章で叙述するというような違いでは決してありません。したがって、数学が苦手だからとか文章を書くのが苦手だからというのは諸君が大学で学んでいるような高度な学問において何の言い訳にもならないのです。
ただし、そうは言っても「わかっちゃいるけどやめられない」わけで文系と理系という認識は今後も続くとは思いますが、少なくとも無駄な優越感や劣等感を抱いて自らの可能性を狭めるようなことだけは避けていただきたいと思います。

文系と理系という分け方を認識しているのは日本だけです。これに「人文科学」を加えて3つに分ける方法もあります。ただし、この「りんごが木から落ちるのを見て万有引力がひらめいた」というニュートンの逸話はどこ までが真実なのかはわかりません。注意が必要です。

私の論文を読むと一見なんだか複雑そうな数式が並んでいます。しかし、私なんぞバリバリの「私立文系」です。足し算と引き算はできますが、割り算は不安なくらいです。数学は昔から嫌いではありません でしたが、40歳になって必要に迫られ、高校の参考書を買ってきて微分積分を最初からもう一度やり直し ました。仕事が終わって酒を飲んで夜遅く帰って来てから微分方程式を解いてました。そんなもんです。大学生の諸君は言い訳できません。

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