論文要旨
本研究は、経営者と株主の関係性に焦点を当て、経営者がどのようなメカニズムで配当政策の意思決定を行っているのかを明らかにしたものである。経営者は、必ずしも機会主義的行動に走るのではなく、自己抑制的な配当政策を通して株主の信頼を獲得し、株主か らの過剰な監視を避けることで企業価値を拡大しようとする。本研究では、宮川(2008)の経営者自己抑制仮説の追加検証という位置付けで、上記のような仮説を立て、重回帰モデ ルによる分析を行った。
宮川(2008)では、2001 年から 2005 年までの 5 年間を対象に経営者自己抑制仮説を検証しているが、それ以降、2014 年に日本版スチュワードシップ・コードの策定、2015 年にコーポレートガバナンス・コードの適用がなされ、経営者と株主の関係性が少なからず 変化してきたと考えられる。Baker/Wurgler(2004a,2004b)の配当プレミアムに着目しても、近年、日本市場において有配企業が高く評価されていることが明らかとなった。そこで、2014 年から 2018 年までの直近 5 年間において経営者自己抑制仮説の検証を行った。また、配当プレミアムの低い期間である 2001 年から 2005 年までの 5 年間でも同様の検証を行い、直近 5 年間の結果との比較を可能にした。
分析対象とする企業は、それぞれの期間に継続して東京証券取引所第一部に上場している企業から、銀行、証券、保険の三業種を除き、さらに、対象期間中に一度でも赤字を出した企業を除いた 1,549 社(2014年から 2018 年までの 5 年間)、794 社(2001 年から 2005 年までの 5 年間)である。配当政策の意思決定は配当変化率に現れると考え、各企業の配当変化率を被説明変数、余剰資産変化率、売上高変化率、当期利益変化率、DER 変化率、平均 ROA を説明変数とする重回帰分析を行った。
その結果、2014 年から 2018 年までの直近 5 年間では、全ての変数において、仮説に整合的な結果が得られ、いずれの変数も統計的に有意な結果であった。つまり、経営者は自己抑制的な配当政策を採っていることが確認できた。また、この結果を 2001 年から 2005 年までの 5 年間の分析結果と比較した追加検証では、ROA を除いた全ての変数にお いて、配当プレミアムの高い 2014 年から 2018 年までの 5 年間の方が、係数の絶対値が 大きい結果となった。これは、配当プレミアムの高い直近 5 年間では、経営者が自己抑制的な配当政策を採る傾向が強くなるという結果である。
あとがき
卒業論文を書き上げた今、満足のいく卒業論文を書き上げることができなかった後悔しか残らない。それは、無論、自分の責任である。
2 年生の秋、宮川研究室の門を叩いた。そこから 2 年間、ファイナンスの世界にどっぷり浸かった。指 4 本分もの厚さのある基本書を 1 ページ目からガリガリと読んだ。毎週水曜日には脳みそがヘトヘトになるまで、考え、意見をぶつけ合った。3 年生の夏からは NTN の企業分析、さらには社名変更の研究をした。毎日、授業の終わる昼 3 時から夜 10 時まで、6 人でひたすら学情にこもった。そんな生活を 3 年生の 12 月まで続けた。議論することが楽しかったし、ファイナンス理論が好きだったからちっとも苦じゃなかった。ファイナンス理論は、いつも基本に戻って考えることを教えてくれた。情報の非対称性がなかったらどうか、誰もが合理的に行動したらどうか。そして、ファイナンス理論は常に論理的に、様々な角度から語りかけてくる。増配という現象に対して、シグナリングで説明する人もいれば、企業のライフサイクルで説明する人もいる。理論として成立しているのだから当たり前だが、そんな論理的で多様性を秘めたファイナンス理論が自分にとって は新鮮で、おもしろいものだった。
そのため、卒業論文に取り組むのも好きだった。特に、先行研究を読んでいると、自分の知らない世界が広がっていることにワクワクした。しかし、なかなか研究に手をつけられない自分がいた。先生がいつでも相談に来ていいよと言ってくれるのに、なかなか研究室に足を運ばなかった。期限が近づかないと、本腰を入れて取り組めないという自分の欠点が顕著に表れてしまった。じっくりと学問に打ち込むことができるのが大学生の特権であるのに、本気を出せば質の良いものが短時間でできるという根拠のない自信が心のどこかにあったのかもしれない。もし、その頃の自分に会えるとすれば、なぜ研究に取りかからないのかと問いただして、ぶん殴ってやりたい。テレビを見ているよりも、布団にくるまって寝ているよりも、有意義で知的好奇心がくすぐられる時間をもっと過ごすことがで きたに違いない。本当に後悔してもしきれない。
こんな怠惰でバカな自分を見放さず、ご指導していただいた宮川先生には感謝の気持ちでいっぱいである。同時に、後まで自分の研究について相談に乗っていただいたのに、 期待に応えることができず、申し訳なく思う。1 年生の春、宮川先生に初めて出会った時、大学にはこんなにも熱くて、話がおもしろく、かっこいい先生がいるのかと驚いた。それから丸 4 年が経とうとしている今では、宮川先生は自分にとって 1 番の憧れであ り、これからもずっと 1 番の憧れであり続けるだろう。ゼミでは先生から多くのことを学んだ。研究室に行くと、ファイナンスのことだけでなく私生活に関しても、たくさんの アドバイスをいただいた。2 年半もの間、大変お世話になり、本当にありがとうございま した。これからも変わらず、よろしくお願いいたします。
また、6 期生の先輩である、はらはるさんにも、3 年生時のグループ研究や卒業論文において、たくさんのことを学んだ。特に卒業論文では、進捗が芳しくない自分のために、データの間違いを指摘していただいたり、一緒になって仮説を考えていただいたりと、大変お世話になった。こんな自分のために自らの時間を割いていただき、ありがとうございました。これからも、ゼミの先輩として、人生の先輩として、よろしくお願いいたします。
最後になったが、ここまで自分を育ててくれた父と母に感謝を述べたい。幼い頃から、自分がチャレンジしたいことは何でもチャレンジさせてくれた。そして、常に自分を否定することなく、何かに失敗しても常に前向きに励ましてくれた。今日の自分が常に前向きでいられるのは、両親の育て方のおかげに他ならない。22 年間、ありがとうございまし た。迷惑ばかりかける息子ですが、これからもよろしくお願いします。
後悔の念が強く残る卒業論文であったが、終的には、研究に取り組み始めた当初から自分が考えていた結果が得られ、その点に関しては良かった。一方で、卒業論文の執筆に あたり後悔したことは、人生の教訓として、これからの人生を歩みたいと思う。