質問の組み立て方

 ここのところ宮川研究室では企業を訪問させていただいたり、実務の方をゼミにお招きしたり、企業の方々に直接取材を行う機会を何度か得ることができた。そのような中、ゼミ生のダイゴ君からブログで「自分が質問したいことを正確に相手に伝えることが難しかった。自分には質問する力が不足していると思った。」というストイックで前向きな感想が 寄せられた。ダイゴに質問する力が不足しているかどうかを判断することは迷うところだ が、それはどうでもいい。少なくとも彼がそのような問題意識を現段階で持っているということは、わずか数年で彼は間違いなく誰にも負けない「質問の達人」になっているだろうと確信できる。意識できることが何よりも大事である。
 なにしろ世の中は質問が下手な人で溢れかえっている。質問しているうちに自分が何を聞きたかったのか自分自身でもわからなくなってしまうことはよくある。国会の代表質問や決算説明会におけるセルサイドアナリストの質問などにしばしば観察される現象である (決算説明については何のコトだかわからない人は多いと思うが)。もっともこれらは質問の要領も悪いが、往々にして質問をする目的が「私の質問って鋭いトコ突いてるでしょ」とか「私はこんなコトまで知ってるんですよ」といった自己アピールに比重が置かれている場合が多く、聞いていてうんざりする。自分の意見は質問と区別して述べれば済むことである。
 原則論としては、自分が一体何を知りたいのかを前もって慎重に自問自答してから質問を発することだが、そのような悠長なシチュエーションにめぐり会うことはほとんどない (国会の代表質問は十分すぎる準備時間が与えられているにもかかわらず何を聞きたいのかわからない質問が多い)。仮にそうしたとしてもダイゴが言うように自分の質問の意図が相手に通じないことはよくある。私が見ていてウマい「質問モノ」はどうやら3段階のプロセスを持っているようだ。まず、第1段階として、自分が聞きたいことを修飾語などなるべく無駄なものをそぎ落としたわかりやすい短文一文で表現する。「御社の20XX年度の利益が落ち込んでいる理由を教えて下さい。」とか「まず私がお聞きしたいのは、御社が利益計画を達成できると考えていらっしゃる理由です。」というような具合である。その上で第2段階は、質問が相手に正確に伝わるよう補足の説明を行う。「20XX年度の業績悪化は為替の影響と考えられますが、同業他社3社と比較すると明らかに御社の利益の落ち込みが大きいように思えます。具体的に申し上げますとA社は・・・。」となるべく相手が何に答えればいいのかがわかるように自分の質問に対して具体的な補強を行う。これは相手が回答しなければならない論点の範囲を狭める効果となり、相手も効率的に回答することが可能になる。そして、第3段階では自分がその質問を行った動機について説明することによって疑問の意図を伝えるのである。「つまり私は20XX年度の業績について外部環境以外に何か御社にとって固有の理由があるのではないかと考えているのです。」とする。
 私は常に結論から先に述べよと言っているが、質問も同様である。まず、1自分が知りたいことを短い一文で表現、2相手が答えやすいように質問を具体的に補強、3質問の意図と背景の説明、というプロセスがウマい「質問モノ」が使うテである。質問が下手な人は、この順番を間違えてしまう。最初に第2段階が来たり、冒頭から第3段階を説明し始めてしまうと無駄な情報が多すぎて回答者はどの論点に集中して答えるべきかが不明確になる。さらに質問している人もよほど要領がよくないと話が本筋から脱線してしまい、結 局自分自身も何を質問したかったのかわからなくなってしまうのである。
 ただし、第2段階と第3段階を入れ替えることは可能である。前後の流れや質問の内容によっては質問の意図の後で質問内容の補強を行うことの方が妥当なケースがある。しかし、第1段階を先に持ってくる順序のみは必ず間違ってはならない。
 ついでだが、回答する立場も同様である。まずスバリと相手の質問に対する答えを短く述べる。これは私が何度もゼミでもうるさく教えてきたことである。まず結論を述べて、その後に理由を説明しなければ質問者のフラストレーションは膨らんでいく。もちろん、先に結論を言わずに相手の質問をはぐらかすという高等手段も存在する。しかし、この高等手段を使うにはかなりの経験が必要である。これをうまくできる人はほとんど見たことがないくらい難易度は高い。そのような能力が一般的に低い政治家達の答弁によくありがちだが、自分にその高等手段が使えると勘違いして質問をはぐらかそうとすると相当深刻 な事態を招いてしまう。質問にはズバリと答えないことの方が何となく知的であるとの勘違いが日本人の中には存在しているように思われる。しかし、テレビに映し出される政治家の映像を見ていれば、それがいかにブザマな結果を招くかよくわかるはずである。
 私が思うに、この高等手段をうまく使いこなせている唯一の職業は、スキャンダルネタで芸能レポーターに追いかけられている時のアイドルあたりではないだろうか。例えば最近では、レポーターの質問をはぐらかせながら嫌みのない笑顔を残してスッとテレビ画面から立ち去るゆうこりんの見事なワザなどは「これぞ達人の域」と言えるだろう。

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