理念とビジョンと計画と

 2 期生は前期に企業分析を行い、実際にデータを収集したり、企業を訪問したり、現実の企業が身近に見えてきたと思います。また、1 期生は就職活動を通して様々な企業を見てきました。今回は企業の経営理念という話から始めます。就職先が決まった 1 期生は改めて自分が入社する企業の経営理念などもう一度確認してみましょう。
 経営理念はその企業が何のために世の中に存在するのか、常にどういう企業でありたいのかといった、事業を行う上での基本的な価値観や考え方を言葉に表したものです。経営理念は時間と空間を超えて存在します。つまり、10 年前も 10 年後もその企業の経営理念は変わりませんし、たとえその企業が海外で事業を行おうと国内で事業を行おうと常に同じ言葉で表されるものが経営理念です。
 これに対して経営ビジョンという言葉があります。経営ビジョンには時間軸が入ることが一般的です。経営理念を前提としていつまでに何を実現するのかという、企業が一定期間に目指すべき姿を象徴的に表現します。10 年後、20 年後にどういう企業でありたいかということを具体的に示すわけです。「10 年後に売上○○億円の企業になる」といった定量的な表現であったり、あるいは定性的な表現で示されたりします。
 そして経営ビジョンを達成するための具体的な方法論が経営計画です。経営ビジョンで描いた姿と現状の姿にギャップがあるために経営計画は策定されます。そのギャップを埋めるためにいつ誰が何をどのようにして行動するのかという具体的な計画になっていなければなりません。また、株主や従業員など経営計画を見る人にとって客観的でわかりやすい内容になっていることが求められます。理念とビジョンと計画を混同している企業が時々見受けられますが、以上のような違いがあります。私は企業を見る最初の段階で、その企業の歴史に加えて特に理念とビジョンを重要な情報として大切にしています1。
 例えばパナソニックのウェブサイトを見ると経営理念は「生産販売活動を通じて社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与する²」とされています。また、経営ビジョンは「創業百周年(2018 年)に向けてエレクトロニクス No.1 の環境革新企業を目指す」と述べられています。先の私の説明がイメージできるのではないでしょうか。
 さて、企業の理念やビジョンはともかくとして、私はむしろ自分個人の理念やビジョンや計画を持っておきたいと考える人間です。自分は常にどうありたいのか、どういうことが正しいとか美しいと考えているのか、自分という人間の根幹にある価値観に立ち返ってモノゴトを判断できるといいのではないかと思います。また、10 年後、20 年後の自分はどうなっていたいかというビジョンもある時からよく考えるようになりました。そして、そのビジョンに対して今の自分に何が欠けているのか、ビジョンを実現するためにはこの1年間に何をどこまでやらなければならないのか、今やっていることにはどういう意味があるのか、そんなことをボーっと考える時間も重要なのではないかと思います。若い頃はただがむしゃらで刹那的な働き方をしていましたが、あるとき「このフィールドこそ自分の場所だ」と考えるようになってから理念やビジョンや計画が必要になりました。その頃は将来研究者になるという具体的なビジョンはなかったものの、このフィールドでは人に負けたくないし、何らかの形で誰も及ばない専門家になりたいと漠然と考えていました。そ の考えが結果として研究者という具体的な形で現れたように思います³。
 1 期生は就職活動で、大学で何をしたかとか、どういう性格かとか、志望理由は何だとかお決まりの質問をされたと思います。相変わらず能の無い企業が多いなと思いますが、面接しているサラリーマンに「アンタはどうなんだ」と逆に聞き返してみたくなります。そもそも人間は自分がナニモノで何を目指しているのかなど常に理解しているものではあり ません。中途採用ならまだしもそんなことを明確に答えている大学 3 年生はむしろキモチ 悪いです。ただし、就職活動をきっかけに改めてそういうことを真剣に考えてみるのも悪 いことではないとも思います。もう一度前ページの理念やビジョンや計画の定義を読み返 して自分自身のことに置き換えてみて下さい。少なくとも常に理想を追い求めることが間 違いなく重要です。
 私はあるときから「自分はナニモノで一体どこに向かって走っているんだろう」と自分自身に問い続ける悶々とした日々を送ってきました。社会に出てからもそんな調子ですから学生諸君が答えを持っているはずがありません。ただし、私はそう自問自答しながら無意識のうちに結局ひとつのフィールドにこだわって来ました。自分が社会に踏み出した最初の一歩が資本市場というフィールドだったために、少なくともせっかくのこのフィールドから軸足を動かしてはいけないと考えました。そして、最後には資本市場を研究する学 者になったというわけです。来春就職をする 1 期生はそのフィールドを天が自分に与えたものとしてまずは逃げずにトコトンこだわって下さい。
 私はこれまで多くの人々に出会い、いろいろな人に影響を受け、運や縁に翻弄されてきましたが、常に自分が依って立つ軸足が必要だと思います。理念のないビジョンを作って、 ビジョンのない計画を立てても単に途方のない「自分探し」を繰り返してしまうことにな ります。諸君にはこれから先、自分自身のビジョンと計画を考える時間が十分にあります。社会との利害がない大学のキャンパスにいる時に自分にとって譲れない理想とは何かにボ サーっと思いをはせるのもいいかもしれません。その際には、理念・ビジョン・計画とい うフレームワークを使ってみて下さい。

1 ただしこれは他人様の企業を見る上で大切にしているだけで、組織に縛られることが大嫌いな私は自分の組織の価値観や理念など押しつけられるとキモチ悪くなってしまうわがままな性格です。こういう人はサラリーマンとして大成しません。

2 この経営理念は昭和 4 年に松下幸之助氏が制定した経営綱領に基づいていると説明されています。
3 つまり私は研究者という仕事に就きたいと考えたのではなく、自分が極めたいと思うフィールドの最終的な到達点が研究者という形だったのだと思います。ただし、研究者という仕事自体にも非常に幸せを感じています。

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