商学部の理由

 ハイ、諸君、こんにちは。さて、いきなりだが、諸君はなぜ商学部を選んだのであろう か。市大なら商学部にキマってるじゃないですか、という学生もいるだろう。マーケティングをやりたい、会計士になりたい、という具体的な目的を持った学生もいるだろう(フ ァイナンスをやりたいという学生はあまり聞かないが)。なんとなくだが、商学部には実社会に直接通じる実践的な知識を学べる、という印象があるかもしれない。本学は一橋大学、 神戸大学とともに旧制三商大といわれる商科大学の名門を源流としている。本学の校章に デザインされた雄々しく広がる両翼は商神マーキュリーを意味しており、商学を原点とした歴史への高い誇りを今に残している証だと言えよう。全国にあまたある国公立大学の中 で本学は歴史的に結構‘キャラの立った’ポジションをキープしてきたわけである。また、 本学商学部の英語標記は「Faculty of Business」となっているが、このことから本学商学部はCommerce」ではなく「Business」を標榜していることも理解できる。
 商学部では教育理念に「考える実学」という言葉を使用している。私が本学に赴任した時に「考える実学」とはどういうことを意味しているのですかと数人の先生に伺ったことがある。企業にも独特な社是やキャッチフレーズがあるが、その意味や由来を企業の方に 伺うと「よくぞ聞いてくれました!」と言わんばかりによどみない説明をしてくれるのが 一般的だ。ところが、本学では「よくぞ聞いてくれました!」と勇んでご説明くださった 先生はいらっしゃらなかった。どうやら各教員の考え方に大きく委ねられているように感じている。私はそのような態度が非常に好きである。「考える実学」の意味を企業のキャッチフレーズのように誰もが呪文として統一された説明をしてしまうとむしろ興ざめしてしまうに違いない。独立した知性の自尊心にその解釈の裁量をあえて残しているという姿勢に本学の創造性の高さと知性の深さを感じることができる。
 そこで、私なりに実学としての商学部のあり方について考えておく必要があるだろう。そもそも日本人は「実学」とか「実践的」という言葉が好きである。しかし、まず先に最 も間違いやすい典型的な誤解(だと私が感じている)を二つほど挙げておこう。一つめは、 会計士や税理士になるための勉強やビジネスで使える英会話の勉強をしようというもので ある。もちろん会計士や税理士を目指したり、英語力を身につけるということ自体は正しいが、大学はそのような目的のために存在するのではない。それは資格試験予備校が担え ば十分に足りる役割である。また、二つめの誤解は、何の知識もない学生がいきなり企業 人を呼んできてディスカッションをしたり、この商品を売るための戦略を考えましょうと いう非生産的な議論をしたり、明確な目的なく工場見学や企業訪問に出かけていったりす ることである。実学であるとか実践的学問という定義を、就職活動に役立ったり、就職したらすぐに活用できる知識であると勘違いしている学生が多いのではないだろうか。大学は職業訓練学校ではない。これは私の実務時代からの問題意識である。私も実務時代に大 学から呼ばれて現場の話を聞かせてほしいというリクエストにお応えした経験がある。学生も先生も非常に熱心に私の話を聴いてくれるのだが、これを一体どのような形でアウトプットしようとしているのかなかなか理解ができなかった(漫談を聴きながら気分転換す るという目的であるなら一定水準の達成ができたかもしれないが)。私は実務時代から大学はあくまでアカデミックな場所であってほしいと願っていた一人である。
 さて、結論だが、実学としての商学とは空理空論を唱えるのではなく、学んだ理論が現実の社会で検証され、試されることを前提にしているという意味である(と私は考えている)。これを実学としての商学あるいは実践的な学問と定義しておきたい。宮川ゼミでも企業人をゼミに招いたり、ケーススタディを行ったり、企業訪問や工場見学を行ったりするが(むしろ積極的にこのような機会を作るが)、その前に厳然とした理論が存在していなければならない。理論を学ばないままのフィールドワークは高校の学級会や社会科見学と変 わらない。表層的なケーススタディを繰り返しても、実務の世界から見れば‘ちゃんちゃらおかしい学生のノリ’に過ぎないのである。われわれ宮川研究室が目指すのは、先達が積み上げてきた基礎理論を学び、現実のビジネスで起きていることのどれくらいを理論で説明できるのかということを検証し、理論に限界があるとすれば何が原因なのかを考え、学問的社会的貢献を見出すところにある。例えばすでに世の中が変化しているならば最新の標本サンプルを持ってきて既存の理論をどのように修正して行くべきなのかを検討しなければならない。そのような生き生きとした現実の検証の機会が豊富に与えられている分野が商学という分野なのではないかと考えている。
 したがって理論を学ぶためには専門書を ページ目から丹念に読んでいく努力が欠かせない。これは学生時代にしかできない貴重な努力であり、それこそが諸君の強みである。宮川ゼミでは、世界的に定評があり、また学部生にはやや高度な水準の基本書を選んで輪講と いう形式で丁寧にかつ苦しみながら読み込む習慣を身につけている。そのような高い水準の最新理論を知っておかないと企業訪問や企業人との討論というせっかくの貴重なケーススタディを最大限に生かすことができないと私が考えているからである。仮に就職をするとしてもこの努力は役に立つ(私が言うのだから間違いない)。基礎理論を知っている 実務家ほど応用力に長けている。言うまでもなくビジネスの世界では何が起こるかわからない。しかし、常に自分が依って立つ理論を持っているビジネスマンは、様々なケースに直面してもブレない判断と意思決定を下すことができるのである。
 現実に社会で起きている現象こそが実は科学的である。様々な原因が複雑に作用し合って一定の結果を得ているのが現象と言えよう。その現象をつぶさに観察しできる限りバイアスを排除して正確な因果関係を捉える。そして、どのような理論でこれを説明できるかを検討することによって新たな仮説が生まれるのである(ビジネスの世界ではこのプロセスを「問題解決」と呼んでいる)。そのような科学的探究を学問として実践するにおいては、現実の世の中に極めて生き生きとした研究対象があり余るほど豊富に存在しており、 しかも対象たちは時々刻々と変化しているかもしれない。そこが商学部で行う学問のエキ サイティングなところなのである。ワクワクするではないか。商学部でよかったな、諸君!

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