1号館わきベンチの使用方法

 ハイ、諸君、こんにちは。さて、宮川研究室はコーポレートファイナンスを研究分野としているが、4月開講となる正規のゼミに先駆けて新入ゼミ生が決定した秋から科学的思考論とデータ解析の体得を目的にいち早くサブゼミをスタートさせた。科学的思考とは因果関係に着目してモノゴトを見ること、考えることである。その現象はどのような原因によってもたらされているのか、自分の結論はどのような根拠に基づいて構築されたものな のか、相手の主張はどのような背景から述べられているのか、原因と結果を丹念に抽出する癖をつけよう。重要なことは原因と結果を正しくマッチングさせることにある。 
 我々が取り組んでいく学問においては欠かせない基本動作ではあるが、実務世界においても極めて重要である。ひとは正しい因果関係を突き付けられると説得されやすくなる。自分の考えや意思を正確に相手に伝え、相手の心を動かし、納得させるためにも科学的思考のプロセスを経る必要があるのだ。
 科学的思考のプロセスについての詳細をさておくとして、本稿では自分自身の考えを持つという
ことを強調しておきたい。初回のゼミでも述べたことだが、大学で行う「学問」 が、高校で習う「勉強」と異なる点は「知に対するリアクション」を求められるところにある。先達の研究者が発見した「知」に対してそれをそのまま受け入れるのではなく、その「知」に対して自分はどのように考えるのかを検討しなければならない。どこかに矛盾はないだろうか、何か足りないことはないだろうか、異なるサンプルを用いれば異なる 結論を導き出せるのではないだろうか、といったリアクションつまり自分自身の想像力や洞察力を供給することによって初めて「学問」は成り立つ。どこかに正解があってそれを求めに行く作業とは全く異なる世界である。完成度の高い理論に対してそのような態度で 臨むことは非常に難しい。ましてや自分自身の考え方を正確な因果関係を持ち出して構築することはなおさら難しい。だから苦しんで考えなければならない。
 しかし、安心したまえ。この苦しみが諸君の脳にエンドルフィンを大量に分泌させ、や がて諸君を快感の極みにいざなうはずだ。こうして思考にドライブがかかりながら気持ち がハイになっていく。学問の面白さのひとつといえよう。卒業するまでに一瞬でいいからそのようなThinkers
High
」を体験してほしい。Thinkers High を体験する現場としては 号 館わきのベンチなど最適だろう。一人空を見ながら座ってみよう。広々とした緑豊かな本 学のキャンパスは、学生と教員がボーっとモノゴトを考えながら、ハッとクリエイティブ なアイデアを思いつくために日々整備を怠っていないのである。何の拘束も受けずにただ ひたすら考えることに没頭できる、そんな豊かさは大学時代でなければ一生感じることは できない。諸君、今しかないのだよ。どうか考えることに没頭できる幸せに浸ってほしい。
 ただし、実社会においては自分自身の考えを持つことがさらに重要である。他人と異なる視点から現象を観察し、独創的な考え方を供給できなければビジネスで勝てるはずがな い。科学的思考によるプロセスは単なる思いつきを独創的なアイデアに昇華させる。一度でも1号館わきのベンチで Thinkers High を体験した人は、どのような産業で働いてもきっと応用を効かせられることであろう。
 しかし、私の経験によれば世の中のほとんどのサラリーマンは自分自身の考え方を供給する
努力を失っている。あるいは、自分自身の考え方を持っていると錯覚をしている人が圧倒的に多い。現実的には、いつの間にか他人の考えの追従者になってしまっていること に自分自身が気づかないのである。1号館わきベンチの Thinkers High を体験したことがな い人は、誰か他の人が考え出した既存のアイデアを「勉強」して、そのアイデアを検証す ることもなく正しいものと思い込んで主張してしまうのだ。その人になにか権威があった り、へたにしゃべりがうまくて説得力があったりすると事態はさらに深刻である。誰もが そのアイデアを疑うチャンスを逸して思考が停止したまま組織はとんでもない方向に向か って行く。
 これは、アイデアを主張する側も主張される側も科学的な思考力が欠落し、自分自身の 考え方を持つ努力をしないことによって引き起こされる悲劇である(喜劇であることが多 い)。自分の中に意思決定の判断基準を持たない人は他人の視線ばかりを気にして常にオド オドしている。そういう人々はオドオドはしているものの器用でもある。世の中に溢れて いる既存のアイデアを要領よく集めて整理し、全く付加価値のない資料を作って満足して しまう。そういう資料に限って一体だれが読むんだよというくらい大変なボリュームにな ってしまい、徹夜した作成者のみが「なんかスゴく仕事やった感」に全身で浸ってしまっ たりなんかするのである。現在増殖中のこのような残念なサラリーマンを宮川研究室から出すわけにはいかない。
 他人の視線や通説に囚われることなく、異なる視点から現象を観察し、そこから得たも のを科学的思考によって自分自身の考え方として構成する。これにはちょっとした努力が 必要である。しかし、その努力を継続させればいつの間にか気づかないうちに習慣となっ てしまうはずだ。
1号館わきのベンチはいい。春は桜の花びらが舞い、夏は日陰となって 暑い陽光を遮り、秋には芝生からの涼しい風が吹く。冬は図書館にでもこもった方が無難 だが、そんな四季折々を感じながら諸君もキャンパスでエンドルフィンを分泌しまくっていただきたい。

 

 

 

 

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