飲んだ後のシメはうどんに限る:「得正」のカレーうどん

飲んだ後のシメはうどんに限る:「得正」のカレーうどん

「おや?センセー、昼に来はるんめずらしいですなあ。」たまにランチに行くと大将とおかみさんからこう言われる店がある。場所があびこなので研究室からは愛車チャーリーを走らせなければならない。しかし、キタで飲んだ帰りであれば御堂筋線あびこ駅の階段を上がると、大きく「うどん」と書かれた看板は目の前である。そこで「ちょいとうどん一杯・・・」ということになる。
飲んだ後のシメはラーメンに決まっている。しかし、ここ数年、腹の出具合が気になる私は飲んだ後のシメを得正のうどんに決めている。腹が出ているならそもそもシメをやめるべきとの自覚はわずかにあるが、シメのうどんの魅力を教えてくれたのがこの得正である。寒い冬は飲んだ帰りに得正の肉入りカレーうどんで体を温め、暑い夏は飲んだ帰りに得正のぶっかけうどんで体調を整える。飲んだ後の「ちょいとうどん一杯」はその後の安眠を助ける効果がある(ような気がするが、おそらくウソ)。

もちろん本来はシメ専門の店というわけではない。学生にも大人気のれっきとしたうどんの名店である。ところが、私の悪い癖が学生にも広がり、学生と飲んだときも「センセー、今日も得正でシメましょう!」と誘われることになる。得正と出会う前まで、私は飲んだ後の、あのアルコールでややマヒしている状態の舌にはこってり系のラーメン以外にないと考えていた。だが、得正のうどんは改めて襟を正し、じっくり味わいたい、そういうハイレベルな出汁である。だから時々は昼間しらふの時にチャーリーに乗って味を確かめに行くことにしている。
学生に人気の理由はうどんだけではなく、大将とおかみさんの人柄にある。学生の間では「あびこのうどん屋さん?あのおっちゃんとおばちゃんがめっちゃええ人の店やろ?」という評判で通っている。「おっちゃんとおばちゃん」はとにかく常ににこにこと穏やかな笑顔で迎えてくれる。人柄が顔に現れるというのがこのお二人だ。常連が多いのもうなずけるが、新参者に対してはどこまでもやさしい。こうして顧客層はガンガン拡大する。カウンター越しに楽しい会話を弾ませるが、程度をわきまえている。聞けばなんでも話してくれるが、無駄な長話はしない。客同士の会話にはにこやかに耳を傾けるが、ずけずけと無駄に入ってくることはない。実に小気味がよい。

ただし、このお二人、実はご夫婦ではない。この店で 13 年のコンビを組む得正株式会社の上司と部下である。それだけに二人の息はぴったりと合い、カウンター内の動きには無駄がない。役割は整然と分担されているようだ。注文を受けると「あいよっ、肉入りいっちょうっ!」と威勢のいい掛け声が店内に響くものの、客には聞こえない瞬間的なささやきが二人の間で交わされ「シゴト」にとりかかる。時おりお互いのアイコンタクトでどんぶりと薬味がノールックパスされる。笑顔だが、カウンター内の「シゴト」は着々とかつ厳しく進められる。

言っておくが、店のウリはカレーうどんである。麺には太麺と細麺の二種類が用意されているが、太麺がデフォルトである。私は麺は何でもコシの強いのが好きなので、やわらかめの関西のうどんにはこれまであまり興味が湧かなかった。ところが得正は例外である。確かに讃岐のようなコシの強さではないが、しっかりとした歯ごたえがある。同時に喉にするすると抵抗なく入っていくやさしさと腹持ちするもっちり感を備えている。麺食いの私にはこういううどんもありかと新たな発見となった。カレーは最初に口にするとやや甘いと感じるだろう。不思議だが、食べ進むにつれて徐々に辛さを感じるようになる。食べ終わったころには額が汗になっているはずだ。
650 円のカレーうどんを基本メニューとして、肉入り、チーズ入り、餅入り、海老天入りとバリエーションが広がるが、それだけではない。肉盛り、豚カツ、ミンチカツを載せて 850 円、さらには自分で好きなものを自由に三種類を載せることができるスペシャルもある上に個別アイテムのトッピングという選択肢もある。下の写真左は、私のためにあるようなメニュー、豚カツ入りカレーうどんにライスをセットにしてオーダーしたものである。だいたい豚カツにはカレーが合うことになっている。だとすればライスもつけるに限る。写真の通りのボリュームである。しかし、得正のうどんは胃への圧迫感が少ないせいか、意外にいつものカツカレー大盛を食べた後のような後悔を感じさせない。ほどよい満腹感を得られる。
写真右は海老天入りうどん(カレーではなく出汁うどん)だが、当然これだけでは私の胃袋は満たされないので肉玉ライスをセットにしてオーダーしてみた。肉入りうどんにするか海老天入りうどんにするか迷った時にはこれがいい。ご飯の上に肉入りうどんの肉が卵と一緒に載って、その上から出汁がかけられている。お得感がある。学生からはぜいたく過ぎると揶揄されるが、当然だ。これも大人買いの一形態である。肉玉ライスは想像するほどのボリュームではない。甘めの出汁ときざみ葱が白飯にジャストミート。海老天うどんにちょうどいい変化を与える。すっかり私の好物となってしまった。

うどん屋ではあるが、メニューにはカレーライスもある。ただし、ここでカレーライスを食べている方にあまり遭遇したことがない。いずれにしても得正がいかにカレーに自信があるかが理解できる。したがって、ほとんどの客が普通の出汁うどんではなくカレーうどんをオーダーする。しかし、実を言うとこの店のシンプルな出汁のうどんが私はむしろオススメである。東京で言う「かけうどん」だ。関西風の薄い色をしているが、味はしっかり。なんと言ってもこの甘めの出汁は特に飲んだ後の胃袋にやさしく吸収されていく。何の抵抗もなく体の隅々に染み渡るような気がする。月見、肉、天ぷらの種類とともにぶっかけの「温」と「冷」がラインナップされる。夏はぶっかけ(冷)だろうと思いがちだが、冬のぶっかけ(冷)も爽やかでいい。得正では必ずしも「冷」は夏季限定メニューではない。それなりの意味と自信があるようだ。
以下の写真はゼミ生と飲んだ後の「得正シメうどん」の様子である。改めてビールを一本飲みながらメニューを見渡したが、この日の私はカレーうどんにするか、ぶっかけ(冷)でいくか、二つの選択肢に頭を悩ませていた。周りを見ると、初得正の女子学生は無難にカレーうどんで攻めに行き、やや気温が高くなった季節なのでぶっかけ(冷)で守りを固める男子学生もいる(なにが「攻め」でなにが「守り」か意味がわからないが)。私は狂うほどに迷いに迷った挙句「えーい、面倒だ。両方食っちまえ!」ついに決めきれず肉入りカレーうどんとぶっかけ(冷)の両方をオーダーすることにした。飲んだ帰りで気も大きくなっているが、神経も多少マヒしている。小食派の男子学生からは、先生の年齢でその食欲、ちょっと異常というか、どこか悪い病気とちゃいまっか?と言われてしまったが、実際に食べてみると大したことはない。さらにもう一杯いけそうな感じがしたが、今日のところはこの二杯のうどんでやめておこう。飲んだ帰りでなくていいので是非一度は訪れていただきたい。

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