論文要旨
本研究は、ブランドは企業価値にプラスの影響を与えるのかについて実証的に分析を行ったものである。Aaker(1991)によれば、ブランドとは「ある売り手あるいは売り手のグループからの財またはサービスを識別し、競争業者のそれから差別化しようとする特有の(ロゴ、トレードマーク、包装デザインのような)名前かつまたシンボルである。」と定義づけられている。つまり、ブランドとは、自社と他社あるいは、自社製品およびサービスと他社製品およびサービスを消費者が識別できるようにするものである。
経済産業省企業法制研究会『ブランド価値評価研究会報告書』(2002)によれば、企業はブランドを持つことにより、ブランドを持たない企業よりも3つの点で競争優位に立つことができる。一点目が、ノンブランド製品よりもブランド製品の方が、同じ性質をもった商品であっても高い価格で販売できるという価格の優位性。二点目が、顧客がブランドを拠りどころにして継続的に製品やサービスを購入するため、安定的に顧客を確保することができるという高いロイヤルティ。三点目が、本業とは違う領域へと事業を拡大する場合や、海外に進出した場合、本業で培ったブランドを拠りどころとして、ブランドを持たずに新領域への参入や海外進出を行う企業よりも優位に立つことができるというブランド拡張力である。
宮川(2016)によれば、コーポレートファイナンス理論において、企業価値とは「企業が将来獲得すると予想されるキャッシュフローを資本コストという割引率で割り引いた現在価値のこと」と定義される。この企業価値の定義に基づけば、将来獲得すると予想されるキャッシュフローを増加させる、もしくは資本コストを低下させることで企業価値を高めることができる。ブランドを持つ企業はブランドを持たない企業と比較して、競争優位に立つことができ、将来獲得すると予想されるキャッシュフローを増加させる、もしくは資本コストを低下させることができる。そのため、ブランドは企業価値にプラスの影響を与えると考え、検証を行った。
検証を行った結果、ブランドは企業価値にプラスの影響を与えるということが明らかとなった。また、B to C 企業と B to B 企業では、ブランドが企業価値に与える影響に違いがあると考え、サンプルを二つに分けて追加検証を行った。追加検証を行った結果、B to C 企業ではブランドは企業価値にプラスの影響を与えるが、一方の B to B 企業では、ブランドは企業価値にマイナスの影響を与えることが明らかとなった。
あとがき
本論文で取り上げた「ブランド」に興味を持ったのは、CORE 論文の執筆の時でした。 企業が社名を変更する理由として、ブランド力強化を掲げている中で、ふと「ブランドとは何だろう」と思ったのがきっかけです。ブランドはよく耳にする言葉であるけれど、それが何なのか説明することができないことに疑問を感じ、卒業論文を通じて学びたいと考えました。
ブランドとは何か、ぼんやりとイメージはありましたが、その実態をつかむことは、簡単ではありませんでした。ブランドという言葉の意味や、ブランドがもたらす価値について調べる中で、様々な分野の本を読みました。ブランドを資産としてなぜ貸借対照表に計上できていないのかについて知るために、ブランドを含む無形資産について学ぶことから始まり、ブランドが企業に与える影響を知るために、マーケティングの分野の本を読み、また、ブランドを作るためには何が必要かを考える上で、広告宣伝についても学びました。ブランドという形がなく、しかし企業に確かに影響をもたらしているものについて学ぶ中で、自分が知りたいことはどのような本を読めば知ることができるのか、図書館の本棚を行ったり来たりしながらさまざま本を手に取り、知識を深めていきました。自分で情報を探しに行き、少しずつ知識が増え、それを結び付けて組み立てていくことで、ブランドとは何か少しずつ明らかになっていくことがとても楽しかったです。
ブランドは、プラスのイメージをもち、なんとなく聞こえがいい言葉で、多用されているのではないかとも感じました。専門用語が専門的な場面以外でも定着し、流通する中で、意味を知らないまま使い受け入れていることも実感し、そのような言葉を軽率に使わず、意味を理解して使っていかなければならないなと感じました。
卒業論文を書き始め、字数が増えていくごとに季節も冬になりあっという間に卒業の季節が近づいてきました。宮川ゼミでの生活は、とても濃い時間でした。科学的思考論から、輪講、企業分析と CORE の実証研究、そして卒業論文。宮川ゼミに入るまで、何も考えず大学生活を過ごしてきた私にとって、本当に刺激的で学びの多い時間でした。時には、大変だと思うこともありましたが、乗り越えた後には、たくさんの知識と経験がつきました。なんとなく日々を過ごしながらも、何かを得たいという甘い考えをしてきた私にとって、学び、習得することの厳しさ、そしてその楽しさを学べた時間でもあります。
2 年間、熱く指導してくださった宮川先生。2 年間本当にありがとうございました。これまで宮川先生ほど熱く指導してくださる先生に出会ったことはありません。その熱いご指導の中には、心に刺さる厳しい言葉もありました。その言葉で、私の甘さや未熟さを実感し、そして大人としての振舞いや厳しさを知りました。「自分の言葉でしゃべること」このことが私が一番心に残っている先生からの教えです。借りてきた言葉、聞こえがいい言葉に踊らされて、自分の想いの核を見失っていました。先生と話す中で、借りてきた言葉でしゃべっていれば指摘してくださり、そこから少しずつ自分の本心と向き合い、それを伝えられるような言葉を選べるようになりました。自分の想いを自分の言葉で話すこと。これを忘れずに、これからも頑張っていきます。ありがとうございました。
2 年間ゼミで頑張ってこられたのは、同期の 7 期生のおかげです。7 期生のみんなが頑張っているからこそ、私も負けていられない。明日からも頑張ろうというエネルギーを何度ももらいました。7 期生とは、本当に長い時間を一緒に過ごしました。特に思い出深いのが、企業分析と CORE の研究に没頭した 3 回生の秋です。毎日学情 6 階のアカデミックコモンズにこもり、閉館まで過ごし帰りの電車も一緒。本当にいろいろな話をしました。これだけ長い時間を過ごし、そしてともに一つの研究に没頭し、お互いに支え合いながら頑張ることのできる仲間に出会えたことは一生の財産です。ありがとう。
これまでの学生生活を支えてくれた家族へ。これまで私がやりたいと思ったことには何でも挑戦させてくれて、そして応援してくれて、本当にありがとうございました。悩んでいるときには、夜遅くまで話を聞いてくれて、そして背中を押してくれる。そんな家族の存在があったからこそ、ここまで来ることができました。卒業後は兵庫を離れ一人で頑張っていかなければなりません。私も不安ではありますが、きっと家族のみんなはもっと不安で心配していると思います。私は、精いっぱい笑顔で頑張ってきます。これからも、心配をかけると思いますが、応援していてください。よろしくお願いします。
私は、高校 2 年生の時に、高校での大学説明会に来てくださった宮川先生の大学紹介を聞いて、大阪市立大学商学部に行きたいと強く思いました。ここ大阪市立大学商学部に進学し、宮川ゼミで学ぶことができ、本当に充実した学生生活を送ることができました。あの日感じた魅力を信じ、大阪市立大学商学部に進学することを選んで本当に良かったです。宮川先生、宮川ゼミ7期生、先輩の皆さん、後輩のみんな、大学で出会った友人、今まで応援してくれた家族、この学生生活を支えてくださった方々に感謝の言葉を示し、卒業論文を締めくくります。ありがとうございました。