企業の現金保有を市場はどのように評価するのか

論文要旨

本研究は企業の保有する現預金が市場からどのように評価されているのかを明らかにすることをテーマとした実証研究である。

近年、日本企業の現預金保有比率は上昇傾向にある。リーマンショックを機に、多くの企業が事業投資とペイアウトを同時に控えることで、現預金保有比率を高めたのである。中野他(2013)によると日本の上場企業の約半数は実質無借金状態にあり、総資産に占める現預金比率の割合は 15%である。

企業が現預金額を高める動機と現預金を圧縮しようとする動機のどちらともを持ちうる。その要因としては以下の 5 点が挙げられる。取引的動機、予備的動機、エージェンシーコストの存在、負債による規律付け、株主保有構造である。企業の現預金保有行動には様々な要因が複雑に絡み合っているといえる。

このような要因により、保有された企業の現預金に対する市場の評価もまた様々な場合によって異なってくる。市場の評価に関して 5 通りの考えを示す。1 つ目は経営者の私的便益追及である。2 つ目はガバナンスである。3 つ目は財務困難性である。4 つ目は企業の成長性である。5 つ目は市場へのアクセスのしやすさである。日本企業の現預金保有が市場によってどのように評価されているのか実証的に分析する。

そもそも完全市場においては、企業の保有する 1 円の現預金は株式時価総額をちょうど1 円として反映される。しかし、現実の世界では第 3 章で述べた通り企業の保有する現預金は 1 円よりも高く評価される場合や、低く評価される場合がある。現在の日本企業の現預金保有状況は、長きにわたり資金余剰にある。企業としては、経済の先行きの不透明さやリーマンショック時の銀行からの資金調達が困難になったというかことがあるため、あらかじめ資金をため込んでおきたいという思惑があるのだと考えられる。そして、将来的な投資機会に備えているのであろう。しかし、市場は企業のこのような思惑とは乖離しているのではないかと考える。予備的動機から現預金を保有し続けているのであれば、どこかのタイミングでその保有する現預金を投資に振り分けていかなければならない。現状の日本企業は有効な投資先を見つけることができず保守的になりすぎているのではないか。

本研究では、仮説を「企業の保有する現預金 1 円を市場は 1 円よりも低く評価している」とした。

分析対象とする企業は、2009 年から 2018 年までの 10 年間における東京証券取引所一部に上場する企業のうち銀行業、証券業、商品先物取引業、保険業、その他金融業を除く3 月決算の企業である。

仮説の検証は重回帰分析を用い行った。被説明変数を時価総額、説明変数を現預金保有額、コントロール変数として税引後営業利益額、税引後営業利益変化率、総資産変化率、投資額、投資額の変化率、支払利息、支払利息変化率、配当額、配当額変化率を用いた。その結果、時価総額と現預金保有額の間で優位な結果が得られ、またその係数は 0.88 であった。この結果から企業の保有する現預金を市場が 0.88 円と 1 円よりも優位に低く評価していることが明らかになった。これは「市場は企業の保有する現預金 1 円を市場は 1 円よりも低く評価している」という仮説が統計的に支持されたということである。

 

あとがき

最後に宮川研究室での活動の振り返りと感謝を述べ、本論文を締めくくりたいと思います。

宮川研究室に所属し、宮川教授のもとで学ぶようになってからの 2 年間は他では経験することができない、そして自分が今まで経験したことのないほど濃密な 2 年間でした。科学的思考論のプレゼンテーション、コーポレートファイナンスを学んだ輪講、ディベート大会、小林製薬の企業分析、一橋大学・神戸大学との三商大ゼミ、コア論文執筆、卒業論文。これらを乗り越えてきた 2 年間は本当に充実し、多くのことを学びました。充実した時間はあっという間に過ぎて行きました。

宮川研究室での学びはこれまでの学びとは全く異なるものでした。これまでの学びは、決められた一つの答えを導き出すためのものであり、いかに周りと同じように正解にたどり着くかという方法を学ぶいわば暗記のようなものであったと思います。しかし、宮川研究室での学びは、答えのない問いに挑み、6 期生の仲間と共にまだ誰も知りえることができない答えを作り上げて行くという創造的なものでした。常に仲間と意見を交わし全員の意見や考えが混ざり合い、自分一人では到底思いつくことのなかった答えにたどりつくことができました。この感動と達成感を忘れることができません。このように刺激を与えてくれ、共に学び、成長した 6 期生は私の誇りです。

しかしながら、このような経験ができたのもすべては担当教授である宮川教授のおかげです。宮川教授が初めて私と出会ったとき、過去の挫折に縛られ苦しんでいた私に「世界はもっと広い。狭い視野ではなく広い視野で世界を見ろ」と言ってくださいました。そして、宮川教授のもとで学ぶうち、その言葉の意味に気付かされました。学んできたコーポレートファイナンスの相手にする世界は、とても広くすべての会社のすべての事象を相手にするといっても過言ではありません。学んでゆく中で、たくさんの人と出会い本当に世界の広さを知りました。過去の挫折にとらわれ狭い視野にとらわれていた過去の自分と、今の自分では見ている景色が全く違います。未熟な自分に何度も喝を入れてくださり、なんとかここまでやってくることができました。宮川教授との出会いで自分の人生は大きく変わったと断言できます。本当に感謝しています。

最後に両親への感謝の気持ちを述べます。両親のサポートなしには今の自分はありませんでした。常に私のことを考え愛情をもってここまで育ててもらえたことに深く感謝しています。

来年からは社会人となり、さらに広い世界に出ていくことになる。社会人としてこれまで宮川教授に教わってきたことを生かしながら、様々な人と出会い自分の知見を広げていきたいと思う。以上を本論文を締めくくりとさせていただきます。

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